難治性中耳炎

難治性中耳炎って何?

小児と比べると成人は急性期の中耳炎の頻度は低いのですが、一方で穿孔性中耳炎(鼓膜に穴があいた中耳炎)真珠腫性中耳炎癒着性中耳炎などの慢性的な中耳炎の頻度が高くなります。これらの多くは内服薬や耳処置などの保存的な治療でコントロールが可能です(ただし、一部の方は早期の中耳手術が必要)。
しかし、これらとは病態が異なり、確定診断に時間がかかったり、一般的な中耳炎の治療でコントロールが不良な難治性中耳炎が存在します。
その特徴は、

① 従来の抗生剤の投与や鼓膜切開、鼓膜チューブ挿入留置などの治療を行っても改善しない。
② 診断がなかなかつかない。
③ 再発しやすい。
④ 手術療法で完治しない。
⑤ 内耳障害や顔面神経麻痺などの合併症を引き起こす。

などです。
以下に種々の難治性中耳炎について述べていきます。

好酸球性中耳炎

好酸球性中耳炎は極めて粘稠な水あめ状の耳だれと多数の好酸球の浸潤を特徴とする難治の中耳炎です。ほとんどの症例では気管支ぜんそくが先行して発症します。好酸球性中耳炎は比較的新しい概念の中耳炎であるため、未だに定まった治療法は無く、各院の治療法に委ねられているのが実情です。
好酸球性副鼻腔炎の合併の頻度が高いのも特徴です。50才代での症状発症が多く、女性がやや多く(62%)、両耳側発症の可能性が82%、副鼻腔炎(ちくのう症)多発性鼻茸など好酸球性副鼻腔炎の合併が約75%との報告があります。

また、片側もしくは両側とも聾(聴力を失うこと)になる可能性が、5.8%との報告があります。このように、好酸球性中耳炎は難聴の悪化が最大の問題です。抗菌薬や鼓膜切開など従来の中耳炎に対する治療法の効果が乏しく、ステロイドが効果的な場合が多いようです。よく似た病気に、好酸球性多発血管炎性肉芽腫や好酸球増多症に伴う中耳炎があり、区別が必要となります。

好酸球性中耳炎の原因

詳しい病態は不明ですが、成人発症型ぜんそく(特にアスピリンぜんそく)の方や、慢性副鼻腔炎の中でも鼻にポリープが充満する慢性副鼻腔炎の方に対してステロイドの全身投与が終了後や、ステロイドの使用量が少なくなった時に急性中耳炎にかかると好酸球性中耳炎に進展する可能性があります。最近、耳管機能検査(耳と鼻の間にある細い管の働きを調べる検査)で耳管開放時間が延長していることから、耳管閉鎖不全(※下記)が背景にあることがわかってきました。

※ 耳管機能不全とは?

耳管は通常は閉鎖していて、必要に応じて開放するべきものです。しかし、このバランスが乱れることで耳管開放症や耳管狭窄症につながります。耳管開放症は自分の声がよく聞こえる、呼吸音の聴取、耳のつまり感などを症状とします。耳管狭窄症は耳の聞こえが悪い、耳のつまり感、自分の声がよく聞こえる状態にひんぱんになるといった症状が出ます。

好酸球性中耳炎の治療法

好酸球性中耳炎は内耳障害を起こしやすいので、ステロイドを鼓室(鼓膜の奥の空間)内に注入したり、ステロイドの内服が原則です。症状が重い場合は、入院していただき、抗生剤やステロイドの点滴治療と耳洗浄や鼓室内の肉芽除去やレーザー蒸散などを行うケースもあります。(難治性の場合は当院関連病院にご紹介致します。)

結核性中耳炎

中耳炎の治療をしているのに、なかなか耳垂れが治まらないという人の中には、まれに結核が原因のことがあります。皆さんは肺の結核なら聞いたことがある人は多いかと思いますが、耳に症状が出るものもあります。さらに2~45%に顔の神経が麻痺して顔が歪んでしまう症状(顔面神経麻痺)が出ることがあります。

検査しても肺に全く病変がない場合や、結核の人との接触が不明の例もあります。
結核は過去の病気で今はあまりないと思われている人も多いかと思いますが、実は最近ジワジワと結核患者が増えてきているという報告があります。

結核性中耳炎の原因

当然結核菌が原因なのですが、肺に結核の病気があり、そこから耳にまで結核菌がとんで発症する場合と、他の臓器に全く異常なく、耳だけに炎症が生じる場合があります。最近は後者が増えています。

結核性中耳炎の治療

6~9ヶ月の抗結核菌薬の投与を行い、全身状態が安定して検査で結核菌が消失したら、痛んだ組織の除去を目的として中耳手術を行います。

ANCA関連血管炎性中耳炎(旧称:ウェゲナー肉芽腫症)

滲出性中耳炎と思い治療していても、なかなか治らない場合、非常にまれですがANCA関連血管炎性中耳炎(旧称:ウェゲナー肉芽腫症など)という病気のことがあります。進行するにつれて、発熱、体重減少、関節の痛み、さまざまな神経の麻痺症状、めまい、進行する難聴、強い痛みなどいろいろな症状がでてきます。耳ではなく、鼻に症状が出ることもあり、鼻血、鼻づまりなどが生じます。

また肺や腎臓も悪くなり、進行すれば、腎臓が機能しなくなる状態(腎不全)におちいります。肥厚性硬膜炎(※下記)という神経性疾患や、時にくも膜下出血といった生命の危険性のある病気につながることもあります。

※肥厚性硬膜炎(ひこうせいこうまくえん)

初発症状として頭痛をもっとも多く認めます。そのほかに脳の神経症状として、視力障害や複視が多くみられ、経過中には、硬膜肥厚に起因する意識障害、けいれん発作や、その他脊髄硬膜の肥厚による神経根や脊髄の圧迫からおこる、神経根症状や脊髄症状(神経根に一致したしびれや感覚障害、筋力低下、失調症状、膀胱直腸障害など)を認めます。経過は長く、良くなったり悪くなったりを繰り返す難病です。診断にはMRIが有効です。

ANCA関連血管炎性中耳炎の原因

全身の血管に炎症(血管炎)が生じることで、発症するといわれています。
全身の血管炎により、上記のようなさまざま症状を引き起こします。
ある種の炎症性の刺激や薬剤の刺激が血管炎を誘発していると考えられていますが、そのメカニズムは未だによくわかっていません。

ANCA関連血管炎性中耳炎の治療

診断が確定したら、他の臓器にも血管炎病変がないか全身チェックを行います。そして、早期にステロイドと免疫抑制剤によって治療します。

コレステリン肉芽腫(にくげしゅ)

滲出性中耳炎のように、中耳に液体がたまり、聞こえが悪くなります。ただ滲出性中耳炎と違って、換気用の鼓膜チューブを入れてもいつまでも茶褐色の耳垂れが続きなかなか乾燥しません。しかも液体が粘稠なため、入れたチューブが詰まってしまったり、チューブが自然に押し出され、とれてしまうことが多いです。
滲出性中耳炎は8歳未満に起こることが多いのですが、この病気は逆に10歳以上の小児から成人に多いという特徴があります。

コレステリン肉芽腫の原因

はっきりとしたことは不明ですが、中耳の粘膜に強い炎症が生じて出血し、赤血球の成分であるコレステリンという物質に対して、異物反応が生じて肉芽ができると考えられています。

コレステリン肉芽腫の治療

まずは換気用の鼓膜チューブを挿入します。前述のように、これだけですと、すぐに詰まったり、抜け落ちたりするので、ステロイドを短期間飲んでもらうことが多いです。
ステロイドが終わった後も症状が落ち着いていれば、そのまま経過を見ますが、症状が再燃してしまい、難治な場合は手術が必要になります。

急性中耳炎の合併症によるもの

(1) 急性乳様突起炎
前述のように耳は、外耳・中耳・内耳と別れていますが、さらに詳しく言いますと耳の周囲の骨(側頭骨)の中には蜂の巣状になっている場所(乳突蜂巣:にゅうとつほうそう)があり、そこと中耳は繋がっています。この乳突蜂巣まで中耳の炎症が及んでしまうことにより生じます。
症状としては、通常の急性中耳炎より炎症が強いため、高熱がでて、耳の周囲には膿が溜まり、耳の後ろ側が腫れて、さらに汚い耳垂れが大量に出てきます。
抗生物質投与だけでなく、換気用の鼓膜チューブを入れ、手術をしてしっかりと膿を出してあげる必要があります。

(2) 顔面神経麻痺

中耳炎が原因で顔が麻痺すると聞くと驚かれる方も多いと思います。実は顔を動かして表情を作っている神経(顔面神経)が耳の中を通っているのです。よって、炎症がひどいと、中耳の炎症が顔面神経にまで及ぶことがあり、麻痺してしまうというわけです。
目が閉じにくい、水や食べ物が口からこぼれてしまう、顔がゆがんでしまう、味覚が感じにくくなる(顔面神経は味覚にも関係する神経です)等といった症状が生じます。
ほとんどの場合は、飲み薬で麻痺はよくなります(治療期間は何か月とかかることもあります)が、麻痺がひどいときには、手術をする場合もあります。

(3) 内耳炎

耳の奥(内耳)には、平衡機能を司っている器官と聞こえの神経にかかわる器官があり、中耳の炎症が、それらがある内耳にまで及ぶことがあります。それを内耳炎といいます。
平衡機能がおかしくなるので眩暈(めまい)が生じます。
また聞こえが一段と悪くなり、耳鳴りや耳が詰まった感じ(耳閉感)がすることもあります。炎症が治まった後も、後遺症として、難聴、耳鳴り、耳閉感が残ってしまう場合もあります。
大多数は飲み薬や点滴で経過を見ますが、膿などが溜まっているなど炎症がひどい場合は手術をすることもあります。

悪性外耳道炎

中耳炎ではありませんが、関連性が非常に強いので掲載します。
外耳道の皮膚だけでなく、外耳道近くの軟部組織や軟骨、骨などを進行性に侵していく壊死性の外耳道炎です。側頭骨や頭蓋底の骨を侵して、激しい耳痛や頭痛が出現します。なかなか改善しない耳垂れや外耳道の腫脹、さらには顔面神経麻痺など様々な脳神経症状が出現し、細菌は頭蓋底に沿って広がり、なんと病側とは反対側の耳にも感染をおこすことがあります。糖尿病の患者さんや、抵抗力の低下した高齢者に発症しやすい、緑膿菌(りょくのうきん)、MRSA、真菌による外耳道感染症のひとつです。治療法としては、原因菌に適合した抗生剤や抗真菌薬を長期間使用します。コントロールされていない糖尿病の方が多いので、内科医師との連携で血糖値をコントロールします。それでも改善しない場合は外科的治療も行います。しかし、難治性で予後は不良です。

中耳腫瘍

こちらも中耳炎ではありませんが、しばしば初診時は中耳炎と間違われ、その後の治療に支障が出る場合があるので掲載します。
中耳にできる腫瘍で、比較的まれな病気です。症状は腫瘍が大きくなるまで出にくく、聞こえの悪さや耳鳴り、耳の違和感、顔面神経麻痺などの症状で受診時に偶然発見されるケースがあります。診断にはCTやMRIが有効です。 側頭骨には中耳腺腫、中耳カルチノイド、炎症性繊維芽細胞腫(えんしょうせいせんいがさいぼうしゅ)、中耳グロムス腫瘍、顔面神経鞘種(がんめんしんけいしょうしゅ)などの良性腫瘍が多いのですが、極めてまれに癌も生じます。  
中耳腫瘍と紛らわしい疾患として、コレステリン肉芽腫真珠腫性中耳炎(しんじゅしゅせいちゅうじえん)鼓室硬化症(こしつこうかしょう※下記)、鼓室内の血管の走行異常などがあり、見た目や画像検査だけでは鑑別が困難で、確定診断までに時間を要するケースもあります。

※鼓室硬化症

慢性中耳炎の成れの果て。長年の中耳炎で鼓膜や中耳粘膜が石灰化・骨化して音を伝える仕組みが悪くなり、聴力が低下してしまう中耳の病気。聴力の改善には中耳手術が必要。

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